『パリ写真の世紀』

発行年2003年(630頁)
出版社白水社
著者今橋映子(単著)

[2003年度 第9回重森弘淹写真評論賞受賞]
[2004年度 第3回島田謹二記念学藝賞受賞]
[2004年度 日本写真協会賞 学芸賞受賞]

 パリというイメージは、写真の中でいかにして変容していったのか——1928年頃からパリで活発になったモダニズム写真の潮流の中で、パリとパリ人を対象とした新しい写真群が生まれる。著者はそれを〈パリ写真〉と新たに命名し、都市写真と亡命外国人写真家たちとの関係を詳細に辿った。アジェ(仏)、ケルテス(ハンガリー)、クルル(ポーランド)、ブラッサイ(トランシルヴァニア)、ドアノー(仏)、イジス(リトアニア)、エルスケン(オランダ)、カルティエ=ブレッソン(仏)・・・と多国籍の写真家たちが、1930年代の不況とナチス台頭の時代にパリへと亡命あるいは移住し、外国人として都市を放浪して新たな造形を試みる。彼らこそが写真による「パリ神話」を形成し、報道界と出版界がそれを流布し、20世紀後半のマスメディアの洪水の中で、やがてその神話は解体されていく。  パリ写真の創作には、ベンヤミン(独)、マッコルラン(仏)、ブレヴェール(仏)、サンドラール(仏)、ミラー(米)など多くの思想家や作家たちも協働し、「都市から郊外へ」と現代化していく現実と、神話の変貌も捉えていくだろう。本書はこうした「写真と文学」のコラボレーションも描きながら、20世紀の「都市写真とは何だったのか」を探求する。

目次

序章 江戸の記憶・都市の映像——リヴィエール/コバーン/福原信三

第Ⅰ部  パリ神話の成立と文学/写真

第1章

〈パリ写真〉とは何か

第2章

十九世紀生理学の影——始まりとしてのアジェ

第Ⅱ部  写真集というトポス

第3章

都市のグラフィズム——ジェルメーヌ・クルル『メタル』

第4章

遊歩者の手法——『アンドレ・ケルテスの見たパリ』

第5章

思考の星座——ブラッサイ『落書き』

第6章

神話の縁に——ドアノー/サンドラール『パリ郊外』

第7章

街路の驚異——ドアノー『ジャック・プレヴェール通り』

第8章

ポリフォニーの魔術——イジス/プレヴェール『春の大舞踏会』

第9章

ドキュ・ドラマという試み——エルスケン『セーヌ左岸の恋』

第Ⅲ部 パリ写真の展開

第10章

報道か、アートか——カルティエ=ブレッソン

第11章

街路と演出——モード写真

第12章

カメラなき都市写真

終章 消費される〈イマージュ〉

あとがき——写真文化論の彼方へ