『異都憧憬 日本人のパリ』

発行年1993年(484頁)
出版社柏書房
発行年2001年(605頁)
出版社平凡社
著者今橋映子(単著)

[1994年度 第11回渋沢・クロ-デル賞(ルイ・ヴィトン ジャパン
 特別賞)受賞]
[1994年度 第16回サントリー学芸賞(文学・芸術部門)受賞]
 サントリー文化財団選評
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/detail/1994gb1.html


 1862年に幕末使節団がパリを訪問して以来、この異国の都は長く、日本人の憧憬の的であり続けてきた。それはなぜなのか——本書はそこから出発している。

 本書の第Ⅰ部はその鍵を解くテーマとして「ボヘミアニズム」の都としてのパリを捉え、日本人のみならず世界中に普及した「ボヘミアニズム」の実態と神話、日本への普及のきっかけとなった岩村透や永井荷風の作品を分析する。ラ・ボエームの精神とは、近代日本においてすなわち、若き芸術家たちの自立と自由を獲得する術であり、だからこそ憧憬の都となり得たことが、明らかになるだろう。

 本書の第Ⅱ部は次に、永井荷風の「憧憬」とは違う側面を見せていくパリの様相を、1908年から1930年代までの作家を中心に辿っていく。時代に先駆ける感性をもった作家たちが、全くの異文化ともいえるフランスと出会い、葛藤、相克などの感情を抱き、それをどのように作品に書いていったか——藤村はさらに、実は都市論的観点をもって新たな文明批評を構築しようとしていたことも見えてくる。そして金子光晴は、愛情と金銭のどん底生活の中でパリを放浪し、「徒花の都」とパリを揶揄しながらも、両大戦間の厳しい時代にフランス精神がもつ意味を発見せずにはいられない。

 終章では、金子光晴の「独自」と見えるパリの姿が、実は、同時代にパリを放浪したミラー、ブラッサイ、オーウェルのような多国籍の亡命制作家のパリ表象と比較するとき、貧困と街路の詩学においていかに共通の姿をあらわすかを、読者は見届けることになろう。

目次

序章

第Ⅰ部 ボヘミアン文学のパリ
 第1章 ボヘミアン生活の神話と現実
 第2章 アカデミー・ジュリアンと文学
 第3章 日本におけるボヘミアン文学
  ―1  絵を描かぬ画家——岩村透『巴里の美術学生』新考
  ―2  ボヘミアン文学としての永井荷風——『ふらんす物語』

第Ⅱ部 憧憬のゆくえ——近代日本人作家のパリ体験
 第1章 乖離の様相——高村光太郎
 第2章 生きられる都市——島崎藤村
  ―1 眼差しの変貌——『仏蘭西だより』
  ―2 至福の時間——ピュヴィス・ド・シャヴァンヌと藤村
 第3章 徒花の都——金子光晴

終章

貧困と街路の詩学・1930年代パリ―ミラー・ブラッサイ・オーウェル・光晴

あとがき

関連年表