近代日本の美術思想

『近代日本の美術思想(下)』

発行年2021年(788頁)
出版社白水社
著者今橋映子(単著)

 黒田清輝や森鷗外の盟友でありながら、忘却の彼方となった美術批評家・岩村透。
なぜ彼は忘れられたのか——美校の初代西洋美術史教授であった彼は、制作家と社会を結ぶ批評を重視し、「美術」による社会変革を試みた。1910年代の日本で、百年後の「美術と社会」を見据え、美術ジャーナリズムやアーツマネジメントを展開。美術概念を拡大し、工芸や装飾美術、建築の重要性を先駆的に喧伝した。一方では言論統制下に制作家の自由を擁護し、美術行政を論じる。鷗外や黒田、荷風、中條精一郎らと共に、若い前衛芸術世代の基盤をいかに築こうとしたか——。

下巻では、美術行政家、海外美術情報紹介者、建築界と美術界を結ぶキーパソンであった岩村の仕事の全貌と、驚くほど多分野の人々との共闘の足跡を辿る。さらに岩村が晩年、言論統制に対して自己の信念を貫きながらも、病で早逝するに至るまでの歴史の闇を初めて明らかにする。そして2016年、岩村透百回忌記念法要と展覧会によって、何が歴史から蘇ったか、読者はそれを眼前のものとするだろう——。

下巻目次

第Ⅴ部 美術行政とアーツマネジメントの先駆者

第12章

「美術問題」の輿論形成に向けて——〈時言〉〈週報言〉の戦略

第13章

海外美術情報の領分——生きて動く世界美術史

第14章

『日本美術年鑑』の百年——国内美術情報収集の意味とその継承者

第15章

美術行政とアーツマネジメントへのめざめ——国民美術協会という遺産

第16章

美術と建築、技芸家と社会

第17章

歴史が照らすもの——美術行政とアーツマネジメントの先駆者


第Ⅵ部 途絶された旅路——岩村教授復職却下事件の真相

第18章

ボヘミアニズムの光と闇——岩村教授復職却下事件の真相と高等遊民問題

第19章

幻の著作——二言語使用者の夢

終 章

大樹の倒れたあとに——岩村透没後十年忌(1926年)本瑞寺所蔵追善作品群の意味

コラム2

百年後の光輪——岩村透百回忌(2016年)法要および記念展覧会

おわりに——

一念の誠天地を動かすべし

巻末資料Ⅰ

本書 図版リスト

巻末資料Ⅱ

本書 参考文献一覧

巻末資料Ⅲ

岩村透関連 研究書誌

巻末資料Ⅳ

岩村透 追悼全記事一覧

巻末資料Ⅴ ―1

岩村透 主要著作各章の初出一覧―1『巴里之美術学生』

巻末資料Ⅴ ―2

岩村透 主要著作各章の初出一覧―2『芸苑雑稿 初集』

巻末資料Ⅴ ―3

岩村透 主要著作各章の初出一覧―3『芸苑雑稿 第二集』

巻末資料Ⅴ ―4

岩村透 主要著作各章の初出一覧―4『美術と社会』

巻末資料Ⅵ

岩村透 著書一覧

巻末資料Ⅶ

岩村透 全著作一覧(年代順)

巻末資料Ⅷ

岩村透 主要年譜〔および没後行事年譜〕